外国人労働者を雇用する際、企業がもっとも心配していることの一つに、コミュニケーション問題があります。
社内でコミュニケーションが円滑に行えない場合、行き違いからトラブルが生じたり、業務の効率化が低下したりと、企業にとって不利益な要素が生じる可能性があります。そのような背景から外国人本人にとってだけでなく、企業にとっても外国人労働者の日本語教育は重要です。
この記事では、外国人労働者の日本語教育現状から、具体的な取り組み方、そして日本語学習を動機づける方法についてまで詳しく解説します。
外国人労働者の日本語教育の現状
日本で働く外国人労働者にとって、日本語でのコミュニケーション能力は仕事だけでなく生活にも大きく影響します。
外国人労働者の受け入れを推進する国として、または外国人人材を必要とする企業として日本語教育の環境を整える必要性が高まっています。
では、そんな日本の日本語教育の現状はどうなっているのでしょうか。
日本語学習者の推移
ここでは、日本語学習者・教育者・教育施設の数の推移を解説していきます。
文化庁の令和4年時点の調査は以下のようになっています。
このグラフを見ると、日本語学習者に対し教育機関・施設等の割合は増えていることが分かります。教育機関は増加する一方、教育者の数はほとんど増加していないのが現状です。
今後、日本語教育者の数が課題になっていくでしょう。
出典:)「日本語教育実態調査」文化省
外国人労働者とのコミュニケーションの重要性
IT化がすすみ、リモートワークなどが増えた現代社会では、業務上のコミュニケーションが軽視されがちです。国際化の進む職場では、場合によってはコミュニケーションを諦めてしまっていることもあります。
そこで、コミュニケーションがなぜ重要なのかについて、こちらで解説していきます。
新しいアイデアが生まれやすくなる
職場でのコミュニケーションが活発であると、異なるバックグラウンドや視点を持つメンバーがアイデアを共有しやすくなります。
意見を自由に出し議論できる環境では、革新的なアイデアが生まれやすくなります。
ミスを減らすことができる
コミュニケーションの不足は、誤解を引き起こし、それがミスを生む原因となります。適切なコミュニケーションが取れていないと、指示もうまく通らなくなり、業務の正確性が低下していきます。
それに加え、同僚や上司とのコミュニケーションを通じて、ミスが早期に検出されることもあります。
退職者数を削減できる
職場でのコミュニケーションが良好であれば、従業員の満足度は高まり、退職者数も減少するでしょう。従業員が自分の意見を表明することができる環境であれば、満足度が向上し、組織への帰属意識も向上されるでしょう。
当然ですが、半強制的な飲み会や、ハラスメントに値するような声掛けは逆効果であるため注意が必要です。
仕事でコミュニケーションが取れる日本語能力試験のレベル
外国人の日本語能力の指標とされるものに、「日本語能力試験(JLPT)」という試験があります。N1~N4までの基準があり、在留資格の「特定技能」の取得でもN4以上が要件となっています。
N1~N4までの基準は以下のように設定されています。
N1:幅広い場面で使つかわれる日本語を理解することができる
N2:日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる
N3:日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる
N4:基本的な日本語を理解することができる
「特定技能」と「技能実習」(介護職種)の在留資格においては、JLPTのN4レベルが必要とされます。N4レベルでは基本的な日本語の理解は可能ですが、日本人との円滑なコミュニケーションには不十分です。
N4レベルの日本語能力とは、自分の感情や理由を簡単な言葉で述べることができる程度です。また、日本語の説明を理解するのはN3レベルからとされています。
ただし、介護以外の職種の技能実習においては、必要な日本語能力のレベルは規定されていません。
「技術・人文知識・国際業務(技人国)」や「高度専門職」の在留資格では、N2、N1レベルの日本語能力が要求されます。これは、大手企業が大卒の外国人雇用時に、N2取得をエントリー条件とすることが一般的です。
ただし、N2やN1の日本語能力を持っていたとしても、日本で日本人と協力する際には、専門用語や和製英語(カタカナ語)が混ざったり、早口での会話や抽象的な内容になる場合には、コミュニケーションに困難を感じることが少なくありません。
特定技能と技能実習について詳しくはこちらをご覧ください。
特定技能と技能実習を徹底比較!10個の違いとメリット・デメリットをご紹介
外国人労働者への日本語教育の方法
外国人労働者の日本語教育の現状は、以前より改善されているとはいえまだ課題が見られることが分かりました。では、外国人労働者に対してどのように日本語教育を施せばよいか、5つご紹介します。
・入社前・後に日本語学校に通う
・日本語教室・レッスンに通う
・自社で研修を行う
・eラーニングを活用する
・独学で勉強する
それぞれ詳しくみていきましょう。
入社前・後に日本語学校に通う
自社の外国人従業員に対して、日本語学校への参加を促進する方法があります。
一部の日本語学校は、既に就業している外国人労働者向けのコースを提供しており、仕事に関連したスキルを磨くことができます。これには、挨拶や日常会話、業務連絡や電話応対、上司への報告方法などが含まれます。
また、日中だけでなく、週末や夜間にクラスを開講している学校もあります。外国人労働者のライフスタイルに合わせてスケジュールを選ぶことが可能です。
外国人労働者向けのコースを提供する日本語学校では、実践的なビジネス日本語を専門の講師から学ぶことができます。これにより、仕事に役立つ言語スキルを効果的に向上させることができます。
さらに、さまざまな年齢や国籍の仲間と交流する機会もあります。特に外国人労働者の場合、日本にはあまり知り合いがいないことが多いです。学校での交流を通じて友人を作ることで、楽しい生活を築いたり、お互いに助け合うこともできるでしょう。
全国各地には多くの日本語学校が存在します。適切な学校を見つけるためには、Googleなどの検索エンジンで「○○(地名) ビジネス日本語学校」と検索してみると良いです。企業の所在地によっては近隣に学校がない場合もありますが、現在はオンライン授業を提供している学校もありますので、詳細を調査してみましょう。
日本語教室・レッスンに通う
ボランティアの日本語教室への参加は、外国人の方が日本での生活や仕事に慣れるためには効率的です。。これらの教室は、地方自治体、NPO、国際交流団体によって提供され、多くは無料または低価格で提供されています。
出典:)「令和3年度 在留外国人に対する基礎調査-調査の概要-」出入国在留管理庁
このグラフのように、日本語学習の困りごとで多くを占めるのは、日本語教室の料金の高さであり、無料の日本語教室であればそんお需要は大きいことがわかります。
しかしながら、その数は限られており、また、アクセスできる場所も限られていることがあります。
外国人労働者は、日本での生活に慣れるために学習時間を確保することが重要です。そのため、通勤の負担が大きい場合、近隣にあるボランティアの日本語教室を利用することをお勧めでしょう。地方自治体や文化庁の提供する日本語教室の一覧を確認することで、近くの教室を見つけるのが容易になります。このように、外国人労働者が地元で提供される日本語教室を利用することで、日本での生活や業務をより円滑に進めることができます。
自社で研修を行う
企業が外国人材を受け入れる際の研修方法は、以下の2つのアプローチがあります。
まず、自社内での学習指導です。これには、自社スタッフや専門担当者による授業や学習指導を行う方法と、外部から講師を招いての指導方法が含まれます。
ただし、完全に日本語教育を企業や採用担当者だけで行うことはおすすめできません。
日本語教育は、外国人材が母国語にない発音を習得したり、日本語のレベルに合わせた学習を計画したり、ビジネスに関するフレーズや日本文化を教えることを含みます。
これらの要素には専門的なスキルが求められます。
徒労に終わることなく日本語力を向上させるためには、日本語教師の招聘、オンライン授業の導入、専用のカリキュラムや教材の活用など、適切な手段を検討しましょう。
企業主導の研修には、学習時間の確保が柔軟に行えるというメリットがあります。
外国人材が新たな環境に順応する過程で、業務時間外に学習時間を確保するのは難しいことがあります。
そのため、週に1日数時間を業務時間内に確保するなどの方法が有益です。
また、学習の進捗状況を把握し、サポートや評価を行うこともできます。
このようなアプローチにより、外国人材の日本語力向上とビジネスへの適応を円滑に進めることが期待できます。
eラーニングを活用する
eラーニングは、インターネットを活用して学習を進める教育の方法です。
このシステムを導入することで、インターネットが利用可能な環境があれば、「どこでも・いつでも」学習が可能となり、多くの企業で取り入れられています。
主に業務教育やビジネスマナー研修が企業向けのeラーニングの典型的な活用例ですが、日本語教育のためにも利用されています。
教育提供者によるものだけでなく、自治体や大学が独自に制作し、ウェブ上で無償で公開されているコンテンツも存在します。
特筆すべきメリットとして、インターネット接続が可能な環境が整っていれば、時間や場所に制約されずに学習が進められる点が挙げられます。
また、一部の教材には進捗状況をマネージャーが確認できる機能が備わっており、外国人従業員の学習進度を適宜確認することも可能です。
おすすめの日本語教育のE-ラーニングサービスを3つ紹介いたします。
独学で勉強する
外国人が日本で働く際に独学で日本語を学ぶ方法は、いくつかのステップとメリット・デメリットが考えられます。
具体的な方法としては、以下のステップがあります。
①教材選定:オンライン教材、アプリ、テキストブックなどから選び、自分のレベ
ルに合ったものを選びます。
②スケジュール設定:毎日一定の時間を確保し、学習に取り組むスケジュールを作
成します。
③オーディオとリーディング:リスニングとリーディングをバランスよく学び、発
音や文法、単語力を向上させます。
④書き込みと会話:文を書いたり、会話の練習を通じてコミュニケーション力を向上させます。
⑤オンラインコミュニティ:言語交換のパートナーやオンラインフォーラムを活用して他の学習者と交流しましょう。
独学で勉強することは、「自分のペースで学べること、学習方法をカスタマイズできること」が利点として挙げられます。自己管理力が高まり、時間と場所に制約されずに学習が可能となります。
一方で、「正確な発音や文法が難しいこと、ネイティブとのコミュニケーションが限定的であること、モチベーション維持が難しいこと」は独学の難点として挙げられます。
また、独学ではフィードバックが限られるため、誤った学習習慣を身につけてしまう可能性も少なからずあります。
総じて、独学は自己努力と時間が必要ですが、柔軟性と自己管理のスキルが向上し、基本的な言語スキルの獲得には役立ちます。
しかし、実際のコミュニケーションやビジネスシーンでの応用には限界があるため、独学の補完として他の学習方法や機会も検討することが重要です。
日本語学習における動機付けの方法
外国語学習において「動機付け」は非常に重要です。
まずはその重要性について解説し、その後具体的な方法について詳しく解説していきます。
動機付けの重要性
外国語学習において、動機付けは極めて重要です。学習意欲を高め、持続的な努力を促進する要素となります。動機付けがあると、様々なポジティブな影響が期待できます。動機付けのメリットは主に4点あります。
積極的に学ぶ姿勢が自然と身につく
しっかりとした学習動機があれば学習の難関や挑戦にも積極的に取り組む意欲が湧きます。
新しい言語や文法規則への興味が喚起され、学習の障壁を乗り越える力が増します。このような前向きな姿勢が、継続的な学習を支える要因となります。
自己肯定感・自信が向上する
自分から行う学習は、ただやらされる学習に比べ、自己肯定感や自信を向上させてくれます。学習の進歩を実感することで、自己評価が向上し、自信を持つことができます。自分の成果を確認するたびに、学習へのモチベーションが高まります。
効率が上がる
進んで学習することで、適切な学習戦略の選択ができるようになります。やらされた勉強をするのでなく、目標に合ったアプローチを採用し、効果的な学習を追求する姿勢が養われます。
最終的には、言語学習の成果が実際のコミュニケーション能力向上につながります。動機付けが高ければ、言語を使ってコミュニケーションすることへの意欲も高まります。
総じて言えることは、動機付けは学習の鍵となり、学習体験をより充実させてくれます。
日本語教育費の提供
動機付けの一つの方法として日本語教育費を企業が負担する方法が挙げられます。
日本語学習に興味を持っている技能実習生や特定技能外国人にとって、毎月の経済的負担が大きい状況があります。
このようなケースでは、企業が日本語学習を支援する形が望ましいと言えます。そのため、企業が費用を負担し、研修を福利厚生の一環として提供することが有益です。
給与としてお金を支給するアプローチも提案されていますが、その方法では実際に学習に資金が充てられているかどうかのコントロールが難しくなります。
また、それだけでは企業が日本語力を重視しているというメッセージを伝えることが難しいかもしれません。
目標は、外国人材の日本語力向上と企業内でのコミュニケーションの促進です。教育機会を提供し、社内コミュニケーションを強化している企業の魅力を高めることも重要です。
積極的に日本語教育機会を提供することで、外国人材を惹きつける要因となり、企業の国際的な競争力を向上させることができるでしょう。
評価制度と日本語能力の紐づけ
動機付けの方法として日本語能力が直接評価に関わるような制度を作るのも1つの方法です。
日本語能力を高める必要性を明確にし、学習に対するインセンティブを提供することは重要です。日本語は英語とは異なり、主に日本国内や日系企業内で使用される言語です。
しかし、日本語を使う機会が限られている状況でも、その重要性を理解し、学習に取り組むことは欠かせません。
例えば、同郷の仲間が多い職場で単純作業を行っている場合でも、将来的なキャリアや生活において日本語力は必要不可欠です。
日本社会でのコミュニケーションやビジネス環境をより理解し、効果的に参加するためには、日本語が不可欠です。
企業は日本語力の向上を評価項目とし、昇給制度と連動させるなどの手段を取ることで、従業員に明確な学習インセンティブを提供できます。
これにより、日本語学習が明確な利益をもたらすことが伝えられます。
結果的に、従業員の日本語力向上は、組織全体の生産性向上や業務効率化に繋がります。
外国人材が円滑なコミュニケーションを図り、多様な業務に参加できるようになることで、企業にとっても大きな利益を生み出すことができます。
したがって、積極的に日本語学習を奨励し、インセンティブを提供することは、企業の成長と国際競争力を向上させる重要な一環となります。
外国人労働者を雇用する際の注意点
外国人労働者を雇用する際の注意点は以下の3つです。
・自社の日本語学習の環境を整備する
・必要な日本語能力を把握する
・各国の日本語教育の現状を知る
それぞれ詳しく解説していきます。
自社の日本語学習の環境を整備する
自社の日本語学習の環境整備は主に以下2点の要素を含みます。
・研修制度の整備
・実践機会の創出
1点目は研修制度の整備です。
外国人労働者の日本における学習環境は依然として限定的です。したがって、各企業が個別に外国人人材のための充実した研修を提供することが求められています。
これにより、彼らのスキルや知識を向上させるだけでなく、コミュニケーション能力や日本語スキルの向上にも寄与できるでしょう。
2点目は、実践機会の創出です。
企業は意図的にコミュニケーション機会を増やす環境を作り出すことも重要です。日本語を日常的に使用する機会を提供し、実践的な状況での学習を促進します。
これにより、外国人労働者はより早く、効果的に日本語を習得し、業務や社内コミュニケーションに活かすことができるでしょう。
必要な日本語能力を把握する
企業・部署・職種ごとに求められる日本語レベルは異なります。そのため、日本語能力試験(JLPT)のレベルを基に、外国人労働者どれだけの日本語レベルが必要かを明確化する必要があります。
・N4レベル:基本的な日常会話をカバーするレベル
・N3レベル:ビジネスコミュニケーションレベル
・N2,1レベル:技術や専門知識が必要な場合
部署や職種ごとのニーズを理解し、外国人人材に適切な日本語学習機会を提供することが、機会損失や無駄な研修コストの削減に繋がります。
各国の日本語教育の現状を知る
世界各国の日本語教育の状況は大きく異なります。そのため、各国の日本語教育の現状を知っておくことで、外国人労働者の日本語レベルを把握することができます。
外国人労働者の日本語レベルをあらかじめ確認しておくことで、どのような研修を用意すべきなのかを把握できるという利点があります。
また各国の日本語教育の現状を知ることで、必要な日本語レベルに合わせた効率的な採用を行えるようになるという利点もあります。
これにより、外国人人材の日本語スキル向上と、企業のニーズに合った人材獲得が両立し、国際的な競争力を高めることができるでしょう。
外国人採用の際の注意点について詳しくはこちらもご覧ください。
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まとめ
外国人労働者の日本語教育は、企業と従業員双方にとって大きなメリットをもたらす重要な取り組みです。適切な支援と環境を提供することで、外国人労働者の日本での活躍と企業の成長を共に促進できるでしょう。