日本の建設業界は、少子高齢化や若者の建設業離れにより、深刻な労働力不足に直面しています。この状況を打開するための一つの解決策として、外国人労働者の雇用が注目を集めています。本記事では、特に施工管理における外国人労働者の雇用について、雇用が可能かどうかからメリット・デメリット、採用の流れまで詳しく解説します。建設業界の企業の人事担当者の外国人労働者雇用に関する意思決定の助けになれば幸いです。
在留資格とは?
外国人を雇用する際には、まず在留資格について理解しなければなりません。在留資格を持っていない外国人は日本で働けないどころか日本から強制退去させられてしまうからです。
在留資格の種類は29種類ありますが、大きく分けて活動制限の少ない身分または地位に基づく在留資格(居住資格)と、活動内容や在留期間などの制限を受ける在留資格(活動資格)の2種類があります。
居住資格とは?
居住資格とは以下の4つの資格を指します。
・永住者
・日本人の配偶者等
・永住者の配偶者等
・定住者
主な居住資格について以下で解説します。
永住者
日本に長期間住み続けることができる在留資格で、在留期限がないため、自由に職業を選び、社会保障などの日本人と同様の権利を持つことができます。10年以上の継続的な在留、日本での安定した収入と生活基盤、犯罪歴がないことなどが必要です。更新手続きが不要です。
定住者
特定の事情により長期的に日本に住むことが認められた外国人に付与される資格で、主に日系人や難民などが対象です。日系3世や日本に家族がいるなど特定の条件を満たす場合に取得可能です。職業選択の自由があり、生活基盤がしっかりしていれば永住者に移行しやすいです。
活動資格とは?
次に、活動資格の主なものを紹介します。また、在留期間は5年・3年・1年、または3カ月に定められている場合が多いです。
技術・人文知識・国際業務
学術的知識や技術、外国語を活かした仕事が対象で、企業の企画業務や翻訳、ITなどが該当します。また、マーケティング業務なども含まれることに注意が必要です。
技能実習
日本での技能習得を目的とする制度で、一定の職種に従事しながら学びます。主に製造業、建設業、農業、介護などの分野で多く見られます。
特定技能1号
12の特定産業分野で働ける資格です。特定技能1号は5年以内の在留が可能で、家族帯同は不可です。
高度専門職
高度な技術や専門知識を持つ外国人に付与される資格です。海外MBA出身などの多くの実績が必要ですが、永住権への優遇措置や家族の帯同が認められます。また、1号と2号では在留期間に違いがあるため注意が必要です。
■在留資格についてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
外国人労働者が在留資格を獲得するための基本事項や在留資格の種類を解説!
施工管理でも外国人労働者の雇用は可能?
結論、施工管理における外国人労働者の雇用は可能です。しかし、適切な在留資格を取得する必要があり、以下2つの在留資格を取得すれば外国人でも施工管理に従事できるようになります。
・技術・人文知識・国際業務
・居住資格
技術・人文知識・国際業務
技術・人文知識・国際業務とは、「技術」と「人文知識」と「国際業務」という3つのカテゴリーを網羅する就労系在留資格となっています。
出入国在留管理庁によると以下のように定義されています。
「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(入管法別表第一の一の表の教授、芸術、報道の項に掲げる活動、二の表の経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、企業内転勤、介護、興行の項に掲げる活動を除く。)」
このうちの「公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野の分野」(技術分野)において、施工管理業務に従事することが可能です。
ただし、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得するには、以下いずれかの要件を満たす必要があります。
・施工管理に関する内容を大学で専攻し、卒業していること
・施工管理の実務経験が10年以上ある(施工管理に関連する科目の専攻期間を含む)
また、賃金に関しては、日本人と同等水準でないと、在留許可が降りないため、外国人という理由で不当に安く雇えるわけではないことはしっかりと認識しておきましょう。
加えて、雇用した外国人に単純労働をさせた場合、企業は罰則を受けるため注意が必要です。
出典:)「在留資格「技術・人文知識・国際業務」 」出入国在留管理庁
居住資格
居住資格とは以上で説明した4種であり、すべて職業選択の自由があるため、これらの資格を保有した外国人は施工管理に従事することができます。
施工管理で外国人労働者受け入れのメリット、デメリット
外国人労働者を施工管理職として受け入れることには、それぞれ3つのメリット、デメリットがあるため、それらを以下で紹介します。
3つのメリット
以下のような3つのメリットがあります。以下でそれらを解説します。
・人材不足の解消
・多様性の促進
・語学力の活用
人材不足の解消
慢性的な人材不足に直面している建設業界において、即戦力となる人材を確保できます。作業員数も減少していますが、施工管理や現場監督も不足しています。施工管理や現場監督が増えれば大きなプロジェクトも受注できるようになります。
多様性の促進
異なる文化や視点を持つ人材が加わることで、新たな発想が生まれるチャンスになります。外国人施工管理者のアイデアにより、労働時間を短くすることもできるようになる可能性があります。
語学力の活用
海外プロジェクトへの対応力が向上し、国際市場での競争力が高まります。外国人施工管理者の言語能力と現地の文化理解を活かし、東南アジアなどの海外プロジェクトを受注しやすくなります。
3つのデメリット
外国人労働者を施工管理職として受け入れることには、以下のような3つのデメリットがあります。以下でそれらを解説します。
・言語の壁
・法的リスク
・教育コスト
言語の壁
コミュニケーションの難しさから誤解や作業効率の低下が起こる可能性があります。専門用語の理解不足により、施工図面の解釈に時間がかかり、工程に遅れが生じるケースがあります。定期的な日本語研修の実施や、重要な指示は母国語で文書化するなどの工夫が必要です。
法的リスク
在留資格や労働法規の遵守に関するリスクがあります。在留資格の更新手続きの遅れにより、一時的に就労できない状況が発生し、現場管理に支障が生じるようなケースも考えられます。
教育コスト
日本の建設慣行や安全基準に関する教育に時間とコストがかかります。安全教育や品質管理に関する研修を母国語で実施する場合、追加のコストが発生します。eラーニングシステムの活用や、同国出身の先輩社員によるメンター制度の導入などが効果的です。
外国人労働者を雇用する際に遵守すべき5つの法律
外国人労働者を雇用する際には、特に以下の5つの法律を十分に理解し、遵守する必要があります。
・出入国管理及び難民認定法
・労働基準法
・最低賃金法
・雇用対策法
・職業安定法
出入国管理及び難民認定法
出入国管理及び難民認定法とは、日本に入国あるいは日本から出国する全ての人の出入国及び日本に在留する外国人の在留の公正な管理、難民の認定手続きを整備することを目的として制定された法律です。
施工管理に限らず、国内の労働力不足を補うために外国人を入国させる際に最も気を付けるべき法律の1つです。
労働基準法
労働条件に関する基本的な規定が定められています。労働時間、休憩、休日、年次有給休暇などについて、外国人も日本人労働者と同等の扱いが求められます。また、労働基準法第3条は、労働条件面での国籍による差別を禁止しており、外国人であることを理由に低賃金にする等の差別は許されません。
最低賃金法
賃金の最低額に関する規定が定められています。外国人に対しても地域別最低賃金と特定最低賃金を遵守する必要があります。
参考:)「令和元年賃金構造基本統計調査 結果の概況」厚生労働省
雇用対策法
外国人雇用状況の届出に関する規定が定められています。雇入れ時と離職時に、ハローワークへの届出が必要です。
職業安定法
労働者の募集や職業紹介に関する規定が定められています。外国人を雇用する際の求人活動にも適用されます。
■外国人を雇用する際の法律について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
外国人を雇用する際の労働関係法律を解説!入管法から最低賃金法まで解説
施工管理で外国人採用をする流れ
外国人施工管理者を採用する際の一般的な流れは以下の通りです。各ステップにおける注意点と具体例も併せて紹介します。
1.採用計画の策定
必要な人材像、人数、期間を明確にします。「3年以上の施工管理経験を持つ、英語または中国語が堪能な技術者を2名、来年度から採用」といった具体的な計画を立てます。
2.在留資格の確認
求める人材に適した在留資格を確認します。「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では、大学で土木・建築を専攻していることが条件になります。在留資格によって、従事できる業務内容や在留期間が異なるため、十分な確認が必要です。
3.求人活動
海外の人材紹介会社や、日本国内の外国人向け求人サイトを活用しましょう。LinkedIn等のグローバルな求人プラットフォームや、日本の建設業界に特化した外国人向け求人サイトを利用します。求人情報は日本語と英語(または現地語)の両方で作成し、期待する日本語レベルも明記することが重要です。
4.選考
書類選考、面接(オンライン含む)などを実施します。一次面接をオンラインで行い、二次面接は日本で実施し、実際の現場見学も組み込むなどの工夫をします。言語能力だけでなく、技術力や適応力も十分に評価することが重要です。また、ビザ取得の可能性も事前に確認しておくと良いでしょう。
5.雇用条件の提示
賃金、労働時間、福利厚生などの条件を明確に提示します。基本給、残業手当、住宅手当、帰国休暇などを具体的に提示します。また、昇給やキャリアパスについても説明します。
日本の生活コストや税金についても説明し、実質的な手取り額を理解してもらうことが重要です。
6.在留資格の取得支援
必要に応じて在留資格の取得や変更を支援します。在留資格認定証明書の取得手続きを行い、必要書類の準備をサポートします。手続きには数か月かかるため、余裕を持ったスケジュール管理が必要です。
7.受け入れ準備
住居の手配、日本語研修、生活支援などの準備を行います。社宅の手配、銀行口座開設のサポートなどを行います。
8.入社手続き
雇用契約の締結、社会保険の加入、オリエンテーションなどを実施します。雇用契約書(日本語版と母国語版)の作成、健康保険・厚生年金の加入手続き、社内規則の説明などを行います。日本の労働慣行や会社の文化について丁寧に説明することが重要です。
■建設業での外国人採用の流れについてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
建設業での外国人採用に必要な在留資格は? メリットや雇用の流れを解説
まとめ
施工管理における外国人労働者の雇用は、日本の建設業界が直面する人材不足問題に対する有効な解決策の一つです。今後、人材不足が進む建設業界において、外国人材の活用は避けて通れない課題となっています。本記事が、その課題を解決する取り組みの一助となれば幸いです。