外国人労働者を雇用する際、まずは業務に適した日本語能力があるかどうかが気になるポイントです。通常、日本語能力試験の結果を基に採用・不採用を決定する企業が多いでしょうが、将来的に求職者数が増加する見通しを考えると、雇用率向上のためには柔軟な対応が求められるかもしれません。
この記事では、外国人の日本語能力を適切に判断するための注意点に焦点を当て、
・日本での外国人採用の現状
・実際に使われる日本語評価試験
・試験以外での日本語評価について
などを企業目線で説明します。
外国人採用の現状
日本の企業が外国人を積極的に採用する傾向が年々拡大しています。厚生労働省が公表した「外国人雇用状況」の以下グラフによると、2023年の外国人労働者数は2,048,675人で、前年比で19,985人増加しています。これは、コロナ禍の影響にもかかわらず外国人労働者数が増加しており、今後も増勢が続くと予想されています。ベトナムが最も多く、中国やフィリピンがそれに続いています。
出典:)「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末現在)」厚生労働省
また、日本は少子高齢化に直面しており、国内の労働力や人口が減少しています。特に高度な技術や専門知識を有する労働力の需要が増大しています。外国人を積極的に採用することで、人手不足が解消されるだけでなく、経済成長や国内の国際化・多様性の促進にも貢献しています。
外国人採用について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
外国人採用のノウハウを伝授!費用やメリット、おすすめ人材紹介会社を徹底解説!
なぜ外国人が日本で働きたいのか
日本で外国人労働者が増えている理由はどういったものがあるのでしょうか
・語学力の活用
・治安と生活環境の整備
・将来への投資
語学力の活用
多くの外国人、特に留学生などは複数の言語を操るトリリンガルであり、その語学スキルを活かす場として日本を選択しています。留学生の中には、自身の語学力をビジネスやインバウンド需要の取り込みなどに活用したいと強く感じる人々が少なくありません。これが日本で働く外国人の中で、トレンドになっているのです。
治安と生活環境の整備
日本はその美しい街並みやごみの少なさ、夜間でも安全に歩けるという治安の良さが外国人にとって魅力となっています。この安心感は、日本の法制度やルールが整備され、生活環境が安全であることに起因しています。異文化の中で自らを安全に感じられることは、外国人にとって非常に重要なポイントです。
将来への投資
日本は先端技術や研究分野において世界的な強みを持っており、これに学び将来の起業や母国の発展に活かしたいと考える外国人も増えています。アジア圏からの急成長にも関わらず、日本がリードする分野で学びたいという志があります。彼らは自身の将来に向けた投資として、日本を選択しています。
日本語能力をチェックしないとどうなる?
では、仮に日本語能力を確認せずに外国人労働者を採用した場合に起こりうる問題は何があるでしょうか。
・コミュニケーションの困難さ
・業務の誤解
・文化の理解不足
コミュニケーションの困難さ
日本語が不十分な場合、職場でのコミュニケーションには様々な問題が生じる可能性があります。まず、業務効率が低下し、プロジェクトの進捗に遅れが生じる可能性があります。また、言語の不足が原因で、指示や連絡が正確に理解されず、作業においてミスや誤解が生じやすくなります。同僚との連携も難しくなり、チームワークが損なわれることもあります。
問題が発生した際には、言葉の不足が迅速な解決を妨げ、円滑なコミュニケーションが求められる会話やミーティングへの参加も難しくなってしまいます。
業務の誤解
業務の誤解によって、仕事の詳細やクライアントとのコミュニケーションで、言葉の不明確さや誤解が生じる可能性もあります。これによって、プロジェクトの進行に悪影響を及ぼす可能性もあり、具体的にはタスクやプロジェクトの要件が正確に理解されないと、作業の方針がずれ、後に問題を引き起こす原因となるのです。
また、クライアントとのコミュニケーションにおいても、要望や期待が十分に把握されていないと、クライアントの期待に添えない結果になります。これによりプロジェクトの品質やクライアント満足度が低下し、業務に信頼性の問題が生じる可能性があります。
文化の理解不足
文化の理解不足は、日本語能力だけでなく、ビジネス文化や社会慣習においても理解を欠いてしまう可能性があります。言語の不足があれば、ビジネスにおいても同様にコミュニケーションの齟齬が生じやすくなります。たとえば、仕事の進め方やプロジェクトにおける期待値は、文化や国によって異なることがあります。これを理解せずに行動すると、同僚や上司との認識のずれが生じ、職場での協力関係に支障をきたすことが考えられます。
また、日本のビジネス環境においては、相手に対する敬意や丁寧な態度が重要視される文化があります。これが理解できないと、ビジネスの場でのマナーや振る舞いが不適切となる可能性があります。これにより、信頼感を損なうことがあり、長期的なビジネス関係の構築が難しくなるのです。
日本語能力はどう判断する?
外国人の雇用において、企業が特に注視するポイントの一つは、やはり日本語能力です。業務遂行や円滑なコミュニケーションが期待されるため、採用プロセスにおいてかなり重要性があります。2つあります。
・「日本語能力試験」(JLPT)
・「日本語能力試験」(BJT)
それぞれについて詳しく解説します。
「日本語能力試験」(JLPT)
広く採用されている日本語能力の測定手段として、多くの企業が参照しているのが「日本語能力試験」(JLPT)です。JLPTはN1からN5までの5つのレベルで日本語の読解や会話スキルを評価し、外国人の日本語能力を示す有益な指標となっています。多くの企業では、求職者のJLPTのレベルを、採用条件や選考基準として取り入れています。
日本語能力試験(BJT)
さらに、ビジネス状況においては、ビジネス日本語能力試験(BJT)も採用の判断基準として活用されています。これは、日本でのビジネスコミュニケーション能力を測定する試験であり、外国人採用において有益な情報を提供します。
日本語能力試験で測れること
日本語能力試験で測れることは3点あります。
・言語知識
・読解
・聴解
それぞれについて詳しく解説します。
日本語の文字や語彙、文法についてどのぐらい知っているかを測るための「言語知識」、その知識を利用してコミュニケーション上の課題を遂行できるかを測るための「読解」、「聴解」という3つの要素により、総合的に日本語のコミュニケーション能力を測ることができます。特に「何を」「どんな場面で」「どのように利用するか」を適切に言語化できるかを客観的に測るのに向いている試験です。各レベルごとに試験が用意されているので、受験者のレベルを確認するのに役立ちます。
引用元:https://www.jlpt.jp/about/points.html
[6選]日本語能力試験の種類
日本語能力を測る試験には以下の6つあります。
・JLPT
・JFT-Basic
・J.TEST実用日本語検定
・日本語NAT-TEST
・J-cert生活・職能日本語検定
・JSST日本語会話力テスト
JLPT
一般的に、外国人の日本語能力を測定する手段として広く利用されているのが、日本語能力試験(JLPT)です。読み書きそれぞれでN5〜N1のレベルに分かれており、数字が小さくなるほど高い日本語能力になっています。通常、外国人採用では日本語能力試験(JLPT)のN2以上のレベルが要求されます。JLPTのN3は基本的な日常会話が可能な一方で、ビジネスコミュニケーションには難点があります。ただし、JLPTはスピーキング能力を評価しないため、実際の面接や対話によってコミュニケーションの実力を確認することが不可欠です。
順位 | 読み | 書き |
N1 | 新聞の論説や評論などの論理的で複雑な文章を理解し、深い読解力を持つ。 | 自然なスピードの会話や講義を理解し、論理構成や要点を的確に把握する。 |
N2 | 新聞や雑誌の記事、平易な評論などの文章を理解する。 | 幅広い場面で、まとまりのある会話やニュースを理解し、要点を把握する。 |
N3 | 日常的な話題に関する文章を理解する。新聞の見出しから情報の概要をつかむことができる。 | 日常的な場面で、自然なスピードの会話を理解し、内容を把握する。 |
N4 | 基本的な語彙や漢字を使った身近な話題の文章を理解する。 | 日常的な場面でゆっくり話される会話を理解する。 |
N5 | ひらがな、カタカナ、基本的な漢字で書かれた文章を理解する。 | 教室や身の回りの場面で、ゆっくり話される短い会話から必要な情報を聞き取る。 |
難易度別に詳細に示されるJLPTの各レベルは、それぞれ異なる日本語の理解度を必要とします。
N1レベルでは、広範な文脈で使用される日本語を理解でき、複雑な論理や高度な抽象度を持つ文章も把握することができます。また、自然なスピードでのまとまりのある会話やニュース、講義を聞いて、詳細な論理構成を理解し、要旨を把握することが期待されます。
N2レベルでは、日常的な場面の日本語理解とともに、新聞や雑誌の論旨が明快な文章も理解できます。幅広い場面でのまとまりのある会話やニュースを自然なスピードで聞いて、要旨を把握する能力も求められます。
N3レベルでは、日常的な場面の日本語理解が主眼となり、やや高い難易度の文章にも言い換え表現が与えられれば要旨を理解できます。日常的な場面でのまとまりのある会話もほぼ理解できるでしょう。
N4レベルでは、基本的な日本語理解が対象で、身近な話題に関する文章や、ややゆっくりと話される会話であれば、内容を理解することが期待されます。
N5レベルでは、基本的な日本語理解が要求され、日常生活での簡単な文章や、ゆっくり話される短い会話を理解し、必要な情報を聞き取ることができます。
JFT-Basic
JFT-Basicは就労のために来日する外国人が遭遇する生活場面でのコミュニケーションに必要な日本語能力を測定し、「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力」※があるかどうかを判定することを目的としています。
試験の実施はベトナム、フィリピン、中国などアジア圏で広く行われています。試験形式はコンピュータを用いるCBT方式で、内容は文字と語彙、リスニング、読解で60分の試験になっています。
ちなみに、JLPとJFT-Basicは特定技能を取得する際に必要な資格になっています。
特定技能について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
[8選]特定技能1号と2号の違いについて解説!取得方法から共通点まで
J.TEST 実用日本語検定
J.TEST(実用日本語検定)は、実践的な日本語スキルを測定する資格試験で、最もメジャーなJLPTのN!よりも高いレベルまで対応しています。資格取得は就職や転職において強力なアピールポイントとなります。試験はA-C、D-E、F-Gの3つのレベルに分かれ、受験資格は日本語を母語としない全ての人に開かれています。受験料は税込4,800円で、学生の場合は一部免除されることもあります。日本国内では東京・大阪などの都市部から札幌・沖縄までで年6回試験が実施され、国外では中国・台湾・モンゴルなどのアジア圏の13カ国で試験が行われています。
JTESTはJLPTと比べると読解問題を重視しており、日本語の会話表現に関する問題が多く出ます。また試験では複数のレベルを同時に受けることができるため飛び級することも可能です。
日本語NAT-TEST
日本語NAT-TESTは、高品質な問題で即座に結果が得られ、学習進捗を確認しやすい資格試験です。日本語能力試験(JLPT)と同じ基準で構成され、成績表は3週間以内に発行されます。5つの級(5級から1級)が存在し、受験者の苦手・得意が把握しやすいのが特徴です。試験料は税込5,500円で、年に6回(1級は年3回)実施され、国内外(中国、ベトナム、インドネシアなどの15ヶ国)で受験可能です。
日本語NAT-TESTは形式がJLPTに似ているため、JLPTの試験対策として受験することもできます。また転職においてもアピールが可能になります。
J-cert生活・職能日本語検定
生活・職能日本語検定(J‐Cert)は、公益財団法人国際人財開発機構が主催する、日本企業での就職に必要な日本語能力を測る検定です。言語能力だけでなく、日本の文化や習慣を理解し、仕事や生活に必要なコミュニケーション能力も判定します。実用性を強調し、筆記試験に加えてインタビュー試験や論文テストがあり、全てに合格する必要があります。
難易度はマスター級(C1)、上級~中級(C2・B2・B1)、準中級~入門級(A2.2・A2.1・A1)に分かれており、マスター級はJLPTのN1を上回るレベルです。この資格を有することで、専門的な業務にも携わることが可能です。
成績優秀者には日本招待や就職サポートなどの特典があり、ジョブカードにも資格として記載できます。日本国内だけでなく、アジア8カ国でも実施され、国内外での就職機会を広げることができます。
JSST日本語会話力テスト
JSST(Japanese Standard Speaking Test)は、企業の要望に応え、電話を通じて受験可能な日本語会話力測定テストです。テストは約15分で、受験者はあらかじめ録音された音声データからの10問のランダムな出題に対し、各問題に45秒または60秒以内に即座に自由に回答します。評価は5つの基準で行われ、最終的には10段階のレベルで受験者の日本語会話能力が判定されます。
受験は電話で24時間可能であり、試験会場への訪問やアプリのインストールなどの事前準備が不要です。最後に、スコアレポートには評価項目ごとに現在のスキルと今後の課題が示され、学習アドバイスが提供されます。英語、中国語、韓国語、ベトナム語など他の言語への翻訳も対応しています。
日本語能力試験を用いるメリット
企業側が採用時に日本能力試験を用いるメリットは以下の通りです。
メリットは以下の2点あります。
・学習意欲が高い労働者を探すことができる
・レベルにあった仕事を割り当てやすい
それぞれについて詳しく解説します。
学習意欲が高い労働者を探すことができる
日本語の能力を確認することができ、学習意欲が高い労働者を探すことができます。企業が日本語能力を求める背景には、外国人労働者が職場で業務を円滑に進め、効果的なコミュニケーションを取るためには、一定の日本語スキルが求められるからです。これにより、企業は求める職種や業務に最適な日本語能力を持つ候補者を見極めやすくなります。
日常的な場面における日本語能力だけでなく、ビジネスの場面における日本語能力は社内でのコミュニケーションにおいて欠かせません。
レベルにあった仕事を割り当てやすい
日本語能力レベルを確認しておくと、レベルにあった仕事を割り当てやすくなり労働者にとっても働きやすいと言えます。
また企業の方針や理念を正しく理解するのに役立ちます。
日本語能力試験の費用一覧
各日本語能力試験の費用は以下の図の通りです。
日本語能力を見る時の注意点
日本語能力試験を用いる際に注意するべき2点は以下の通りです。
・能力試験はあくまでも一つの指標とする
・内容に応じた日本語要件の検討をする
それぞれについて詳しく解説します。
能力試験の結果はあくまで一つの指標とする
「JLPT」をはじめとした日本語能力試験のレベルはあくまで一つの目安に過ぎないことを理解しておくべきです。試験では妖夢力と聞く力が評価されますが、書いたり話す力は考慮されていません。実際のビジネスでは全ての能力が必要となり、JLPTだけでは総合的な日本語能力を測るのは難しいでしょう。
N1を持っていても日本語での会話が苦手な人もいれば、逆に資格を持っていなくても流暢な人もいます。したがって、JLPTのレベルだけで判断せず、面接などで実際の日本語能力を確認することが大事になってきます。
ポジションや業務内容に応じた日本語要件の検討をする
業務内容によって必要な日本語スキルは異なります。コミュニケーションが重要なポジションでは高い日本語能力が求められますが、一部の業務では基本的な日常会話能力が十分かもしれません。ポジションごとに必要なレベルを明確にしましょう。
日本語教育は入社してからでも可能
結論、入社後に日本語教育を実施することも可能です。
以下の3stepで日本語教育を行います。
・日本語スキルの評価・不足の特定
・言語表現や業界用語、ビジネス文化への理解促進
・従業員が柔軟に学習できる環境を提供
それぞれについて詳しく解説します。
まず、外国人労働者の日本語スキルを評価し、入社後に必要な言語スキルの不足を特定しましょう。その後、個別のニーズに合わせた日本語教育計画を作り、企業内での専門クラスやトレーニングセッションを通じて、実務に必要な言語表現や業界用語、ビジネス文化への理解を促進します。
同時に、オンライン学習プラットフォームを活用し、従業員が柔軟に学習できる環境を提供します。外部リソースや業界特有の言語研修を組み合わせ、入社直後から効果的で実践的な日本語スキルの向上を図ります。これにより、労働者は業務にスムーズに適応し、企業のニーズに適ったコミュニケーションが可能となります。
外国人労働者の日本語教育について知りたい方は以下記事をご覧ください。
外国人労働者の日本語教育の現状とは?重要性と具体的な方法、注意点を解説
能力試験以外の日本語能力評価は?
能力試験以外で労働者の日本語能力を確認する方法もあります。そこでは試験で補えない日本語能力を確認することができます。
評価方法は以下の3つになります。
・オリジナルの日本語テストを導入する
・日本語能力と業務対応を確認する
・面接やビジネス場面でのシミュレーションをする
それぞれについて詳しく解説します。
自社オリジナルの日本語テストを導入する
外国人が入社した後の日本語能力を評価したい場合、自社で簡単な書き取りテストなどを行い、実際の業務に支障がない程度であれば、JLPTの結果に縛られず採用を検討することも一つの手段です。各企業が独自に設けたテストや実務における日本語のシュミレーションなども有効でしょう。
外国人の日本語能力と業務対応を確認する
例えば、日本語の文章は苦手だが、会話においては問題ない場合、あるいは業務上のコミュニケーション能力が高い場合、これも一つの判断要素となります。外国人が従事する業務によって、どの程度の日本語能力が求められるかは、企業が最も理解しているはずです。従って、外国人に求められる日本語能力は、その業務において実用的であることが重要です。
面接やビジネス場面でのシミュレーションをする
個別面接やビジネス場面でのシミュレーションは、外国人の日本語能力を評価するための有効な手法です。このアプローチでは、候補者が実際の業務やビジネス状況を模倣し、日本語での対応力を実演することで、より具体的かつ実践的な評価が可能です。
面接や業務シーンを実際に体験させることで、候補者の的確でスムーズなコミュニケーション能力や現実的な状況への適応力を確認することができます。これによって、日本語の使用だけでなく、ビジネス上のコミュニケーションや業務における適応力など、総合的な評価が行えます。
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まとめ
今回の記事では外国人採用における、日本語能力を測る上で注視すべきポイントを紹介しました。
日本語の資格には様々な種類があり、各資格が異なる能力を重点的に測定します。例えば、一般的な日本語能力試験ではN2以上の取得が一つの目安とされていますが、聴解力やビジネスにおける表現力を評価できる他の資格も重要です。資格だけでなく、面接などの対話を含む総合的な評価が重要であることを心に留め、バランスよく判断することが肝要です。