技能実習制度を利用して技能実習生を雇用しようとしている企業が多いと思います。しかし、失踪することがあるということを聞いて不安に思うことも多いと思います。
この記事では、
・技能実習生が失踪する企業側の要因
・失踪せざるを得ない実習生の状況
・失踪を防ぐ方法
について失踪を不安に思っている方向けに解説していきます。
さらに、既に技能実習生を雇用している方を中心に失踪してしまった場合の対応、失踪した際のデメリットまで詳しく解説していきます。
そもそも失踪とは
家や本拠地など、本来いるべき場所からいなくなり、連絡も取れず、現在行方が分からないことを言います。また、失踪している方のことを失踪者と呼びます。
特に自分の意志で行方を眩ませている人が対象であり、何らかの事件や事故に巻き込まれた場合はこれに該当しません。
技能実習生の場合、受け入れ企業や監理団体と連絡を取っていると考えられるので、双方からの連絡に意図的に出ない場合(例えば携帯などの連絡手段を置き去りにしている、電話が着信拒否されている等)は失踪と判断することができます。
また、技能実習生が無断でアルバイトをすることは法律で禁止されています。
失踪した留学生を採用してしまうと不法就労に当たるため、外国人をアルバイト採用する際には注意して行いましょう。
外国人のアルバイト採用についての関連記事はこちらからご覧ください。
どの在留資格の外国人をアルバイト採用できる?面接手順や手続き、注意点を解説 – RISE for Business
失踪の実態と動向
ここでは技能実習生の失踪者数の推移と業種別の失踪者割合について解説していきます。
失踪者の推移
最新の出入国在留管理庁のデータによれば、2022年の国内技能実習生は324,940人であり、そのうち失踪者は2.0%の9,006人にのぼります。
引用:)https://www.moj.go.jp/isa/content/001412724.pdf 法務省 出入国在留管理庁
引用:)https://www.moj.go.jp/isa/content/001362001.pdf 法務省 出入国在留管理庁
近年は技能実習生の増加に伴い失踪者の人数も増加しています。割合としては同程度で推移していますが、失踪者の人数を減らすことはできていないことが実態としてあります。
出典:)「失踪技能実習生を減少させるための施策」出入国在留管理庁
失踪者の業種別割合
失踪者は業種別で割合が大きく異なっています。その中でも特に失踪者の割合が高い業種は建設関係、農業関係、漁業関係となっています。
令和4年度のデータによると建設業界に至っては6.6%の技能実習生が失踪しています。農業・漁業でも3%を超えており、他業種と比較しても高くなっています。
一方、食品製造関係と機械・金属関係では失踪者は1.1%と低くなっています。
【参考文献】「職種別・技能実習生失踪者数」出入国在留管理庁
失踪者の国籍別割合
国別の失踪者ではベトナムの人が多いことが挙げられます。しかし、そもそもベトナム人の技能実習生が多いことから起因しているため、他の国と割合は割合は変わらないと考えられます。したがって、出身国によって失踪者が増加することはないので注意してください。
技能実習生の失踪理由
ここでは技能実習生がどのような理由で失踪してしまうのかを解説していきます。
企業側に問題がある場合
企業に問題がある場合には大きく分けて2つのケースが考えられます。
・労働契約の問題
・不当な職場環境
労働契約の問題
失踪で挙げられることが多い原因として労働契約の問題があります。特に賃金の問題に関しては実習生の生活、経済状況にも直結する問題であるために、深刻な問題です。
賃金の問題に関しても複数のケースが有り以下の問題が挙げられます。
・最低賃金違反
・契約賃金違反
・賃金からの不適当な控除
・時間外労働に対する割増賃金の不払い
月給制にもかかわらず、天候によって勤務ができない場合に減額するなども契約賃金違反になります。
技能実習生の給与について知りたい方はこちらの記事をご覧ください
外国人技能実習生にも最低賃金が適用されるのか?技能実習生の給与相場は?
不当な職場環境
ここで挙げられるのは現代社会で大きく問題となっているセクハラやパワハラです。これに加えて国籍や宗教などで相手を差別することなども挙げられます。こういった職場の人間関係が当人に与える影響は大きいため問題となりやすいです。
また、労働契約した環境と異なる場所で働かせることや格段に危険・汚い環境で働かせることも不当な職場環境に当たるために労働契約を行った範囲で働いてもらうことが企業側の責任となります。
実習生に事情がある場合
技能実習生側にも事情がある場合があります。特に大きな障害となっていることを2つ解説していきます。
・借金等の経済的な理由
・生活文化の違い
借金等の経済的な理由
技能実習生には自国の送り出し機関に日本語講習や寮の費用などを借金を背負い、支払ってから来日する人が多くいます。そのため借金を思っている通り返せない場合に悪徳ブローカー、不当な雇用機関に誘われて不法就労のために失踪するケースもあります。
また、技能実習では日本に滞在できる期間が最大5年であり、その後も日本で働きたいと考えた際に失踪することがあります。不法就労にはなってしまいますが、自国に帰るより、賃金が高いため生活に余裕ができると考える人が一定数いるためです。
生活文化の違い
技能実習生の出身国によっては日本と文化が大きく異なる国が多数あります。例えば宗教の面で見れば、日本は仏教と神道がありますが信仰心が比較的浅く行事として取り上げられることは少ないです。そのため、宗教に対する考え方などでズレがあります。
また、モラルの面についても日本とは温度感に差があるため、周囲の人たちと馴染めないことが少なからずあります。こういった文化の違いが失踪に影響することもあります。
外国人労働者文化と価値観の違いについて知りたい方はこちらの記事をご覧ください
外国人労働者の文化と価値観の違いによるトラブルとは?具体例と対処法を解説
失踪を防ぐためのポイント
技能実習生が失踪しないために重要なポイントを紹介していきます。
・適切な送り出し機関・監理団体を厳選する
・雇用条件・待遇の説明を細かく行う
・実習生の借金額や返済計画を確認する
・生活環境・相談体制を整える
・差別や暴力を容認しない
・失踪は犯罪であることを伝える
適切な送り出し機関・監理団体を厳選する
悪質な送り出し機関では実習生から違法な渡航費や失踪保証金の徴収を行っていることや必要以上の費用を実習生に請求しており、多額の借金を背負わせていることがあります。
適切な送り出し機関を選ぶことは非常に困難ですが、適切な監理団体を選ぶことはある程度できます。監理団体には「優良」と「普通」があり、優良な団体であれば国の厳しい審査基準をクリアしているため、かなり信頼することができます。
企業は監理団体が指定する送り出し機関を選ぶために優良な監理団体が指定する送り出し機関も信用することができると考えられます。
雇用条件・待遇の説明を細かく行う
正当な金額を支払っている場合でも雇用保険や健康保険などが控除されるために実習生が想像しているより少ない金額になることがあります。そのため、給与と手取りの関係について詳しく解説することが求められます。
また、家賃などを給与から天引きする場合には丁寧な説明と相互の同意に基づいて賃金控除の協定書を結ぶことを推奨します。
他にも、作業場所の労働環境等についてもできるだけ詳細に話すことが必要です。あるケースでは高所が苦手な人に高所作業を割り当てられてしまい、精神的不安から失踪してしまったケースもあります。このため、労働環境についても話し合いは必要です。
ここで大切なことは契約の説明や協定書を結ぶことだけでなく、給与などに不満がないか定期的に確認することが必要です。一方向的な話にならないよう注意してください。
実習生の借金額や返済計画を確認する
面接時などで聞きにくいとは思いますが、実習生の借金の有無、返済計画の現実味について確認することは非常に重要です。送り出し機関が違法な請求を実習生に行っている場合もあります。
また、返済計画に対して手取りの給料が見合っているかなどを考えてあげることも重要です。生活などで必要な金額などを十分に把握していない技能実習生に取って返済計画は無理になりがちです。そういった場合、賃金を上げてほしいとせがまれることや違法な仕事に手を染めてしまうことがあるために、企業側が率先して返済計画をチェックしてあげることが大切です。技能実習生に返済可能なことを説明することで、不安を減らすことができます。
生活環境・相談体制を整える
技能実習生の生活環境を整えるためにも当たり前ですが給与の支払いは期日に行ってください。また、寮などを提供している場合、住居を提供していることにとどまらず、その環境や周辺環境などにも気を配り、労働者がモチベーションを保てる環境を作ることが必要です。
技能実習生は異国の地であり、不安を抱え込みやすいと考えられます。これらの悩みや不満を相談でき、環境を変える体制を整えることで技能実習生のストレスを解消することも必要です。職場環境の改善は日本人の従業員にも好影響が出るため、企業が成長するためにも相談体制は重要です。
差別や暴力を容認しない
差別や暴力を行うことは職場においてはパワーハラスメントと呼ばれ、これは失踪する原因にも挙げられています。しかし、失踪するリスクがある以前に組織的ないじめという認識を持つ必要があり、技能実習生は「ともに働く仲間」という認識を忘れてはいけません。職場内で差別や暴力が起きた場合には厳正に対処することが求められます。
失踪は犯罪であることを伝える
入国管理法 第70条には、「3年以下の懲役若しくは禁錮若しくは300万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する。 」と明確に記載されています。犯罪であることを認識していなかった技能実習生は、次の職場を探そうとする可能性もありますが、当然警察の捜索の手から逃れることはできません。就業規則についてレクチャーをする際に、失踪は犯罪であるとはっきり伝えましょう。
失踪者を減らせた具体的な事例
ここでは具体的に失踪者を減らすことができた方法を2つ事例を元に紹介していきます。
・厳しい労働環境で失踪者を減らした事例
・労働者の生活不安を取り除いて失踪者を減らした事例
厳しい労働環境で失踪者を減らした事例
ここでは肉体労働や高所作業など厳しい環境で行う企業が失踪者を減らした事例を挙げます。
背景
冬の漁業が中心の職場で、非常に寒く肉体的に厳しい労働が必要である牡蠣養殖業で実習生が一度に複数人が失踪してしまったことがありました。厳しい環境であったため、相応の報酬が支払われていましたが、その厳しさ故に継続して勤務することができず、離職してしまいました。
施策
自然相手ですので労働環境が改善することは見込まれないために、企業は業務理解に務めることにしました。面接時にかなりの肉体的労働が伴うことの説明を行い、実際の勤務についても動画で説明する努力をしました。その結果、業務への理解と待遇の良さから失踪者を出さないことに繋げられました。
実習生の生活不安を取り除いて失踪者を減らした事例
ここでは実習生の生活不安を減らして、失踪者をなくした企業の事例を挙げます。
背景
借金を抱えて働きに来た実習生が1年目にもかかわらず十分な成果を上げた後に失踪したことがありました。この原因は日本が堪能であったためより稼げる仕事で借金の返済と仕送りを行い、慣れ親しんだ母国に早く帰国しようとしたことでした。
施策
実習生が1年目から十分な成果を出すということは多少の無理な努力があったと考えられます。文化的にも違う環境であり、少しでも楽したいと思うことは必然です。
この対策として企業は信頼関係として金銭的なボーナスを出すことや常に日本人の従業員との良い関係を築くだけでなく、実習生同士の良い関係を築くことを言語面でサポートすることはもちろん、食事を一緒に行うなど生活の一部をともにすることで信頼関係を作ることが大切です。
また、技能実習生が失踪してしまった場合には不法滞在者の扱いになってしまい他の場所では働けないことを実習生に十分に説明し、借金の返済についても親身に相談に乗ることで失踪者をなくすことができています。
技能実習生が失踪した後の企業が行う対応とは
技能実習生が失踪しないに越したことはありませんが、万が一技能実習生が失踪した場合に企業が行うべき対応を解説していきます。
1:監理団体への連絡
2:警察に捜索願
3:寮などの状況を確認
4:技能実習機構に「技能実習実地困難届出」を提出
5:技能実習生の退職手続き
失踪した場合には早急に1〜3を行うことで発見する可能性が上がります。
1:監理団体への連絡
技能実習生の失踪が発覚した場合には、直ぐに監理団体に連絡する必要があります。
その後、監理団体、送り出し機関、受け入れ機関で捜索を行います。
必要に応じて母国の家族と連絡を取り、行き先の手がかりや失踪の気配などについてヒアリングを行います。
2:警察に捜索願
事件や事故に巻き込まれた可能性も考えられるので警察に相談して捜索願を出すことを行う必要があります。
3:寮などの状況を確認
寮に立ち入って持ち出したものの確認などを行います(スマホや必需品の持ち出しがあるか)。
4:技能実習機構に「技能実習実地困難届出」を提出
監理団体から外国人技能実習機構へ「技能実習実施困難時届出」を提出します。失踪先が判明している場合でも届け出の必要があります。
技能実習実施困難時届出には、受け入れを行っている企業の情報や実習が困難になった理由、実習生の状況を記入し、提出します。
届出書の提出後は、外国人技能実習機構や出入国在留管理機関からの指示を受け、行動してください。
※仮に提出後であっても企業に技能実習生が戻ってきた場合は、実習継続が可能なケースもあります。
5:技能実習生の退職手続き
技能実習実施困難時届出を提出した後に、技能実習生の退職手続きを行います。
失踪するまでの就労記録から最後の給与を本人の口座に振込み、社内規定に基づいて退職手続きを取りましょう。
社会保険や国民年金などからも脱退する必要があります。
失踪したのちに起きることとは
ここでは失踪した際に起きることについて、企業、技能実習生の二者に分けて解説していきます。
企業に起きること
・ペナルティが下る
・企業の労働力が低下する
・新しい従業員を雇わなければならない
ペナルティが下る
特定技能の失踪者が多い企業では優良な実習実施者の基準を満たせなくなるという、ペナルティが下る場合があります。この場合技能実習3号の受け入れができなくなります。また、受け入れ人数枠も規定の人数になってしまいます。
優良な実習実施者の基準を満たすためには「直近過去3年以内の失踪者の人数」と「直近過去3年以内に責めによるべき失踪があること」で判断されます。
「責によるべき失踪」は個別判断となりますが、給与を適切に払わない、劣悪な環境で働かせたなどの理由で技能実習生が失踪した場合が該当します。
企業の労働力が低下する
当たり前ですが、働く人数が減ってしまうために、企業の労働力が減ってしまいます。今まで十分に賄うことができていた仕事に対して労働力が不足してしまうために、他の従業員の負担が増えることも懸念されます。
また、技能実習生が多い企業であれば外国人同士の結びつきが強く集団で失踪してしまう場合もあり、急な人手不足に陥ることもリスクとして考えられます。
新しい従業員を雇わなければならない
従業員が少なくなってしまっているために業務に支障が出てしまうと考えられます。そのため、新規で人を雇用しようとしても人手不足の状態からして十分な人材を確保することが難しいです。また、技能実習生の受け入れに関しても制限がかかってしまうため、日本人、外国人を雇用する際に必要以上のコストが掛かってしまいます。
技能実習生に起きること
失踪した技能実習生は日本の不法滞在者になってしまいます。借金が残っている人であれば返済が困難になることや不法滞在している所が見つかった場合には懲役刑や強制送還、国外退去処分などが言い渡されることがあります。また、「失踪を防ぐためのポイント」の章でも紹介しましたが、入国管理法 第70条には、「3年以下の懲役若しくは禁錮若しくは300万円以下の罰金に処し、又は その懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する。 」と定められているため、事前に技能実習生に対し、失踪することは明確な犯罪であると、周知しておかなければいけません。
失踪した場合には企業側にも当事者側にも大きなリスクが伴うために互いに満足して働ける環境を構築していくことが必要であると考えられます。
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まとめ
今回は技能実習生の失踪の理由や対策、対応方法について紹介していきました。
雇用する前には相手が雇用契約を正しく理解しているかに注意しながら、説明を行うことが大切です。
雇用後は技能実習生にとって働きやすい環境を提供するとともに常に改善をし続けることで、日本人の従業員もモチベーション高く働ける環境を作ることができると考えられます。
異国の地で失踪するほど追い込まれないように技能実習生をサポートしていくことを意識していきましょう。